不器用リカコの書きたい人生

20代リカコが書きたいことを書きたいままに書くだけのブログです。

プロローグ -居場所を求めて-

これはある金曜日のお話。

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彼女は焦っていた。

ここ数日ため息は止まらないし、ひとりになれば携帯をコツコツ深爪の指で叩いたり、たまに平手打ちをしてどうにもならない気持ちの捌け口にしてやった。でも今日もありがとうって充電して、それはまるでDVのそれである。

 

それでも今週は後ろ向きな死にたいではなかった。この物語のひとつ前にも物語が存在する。

前作の彼女はとても苦しそうだった。毎晩泣いてたし、眠たいのに眠れなかったし、頑張りたくないから頑張らなかったら詰んで逃げ場がなくなっていた。でもこれはまた別の話。

 

今週はがんばる理由を見つけていた。

 

彼女は居場所を求めて『がんばる』という歯車を回し始めていた。いや、回そうと力を込めているが歯車に巻き込まれまいと必死に抵抗しているようにしか側からは見えないであろう。彼女が頑張りたくなくなった理由のひとつはそれだが、彼女は彼女の中の「生きる」ためにがんばらなければならなかった。

 

呼吸をしてその場に存在するだけでも生物学的な「生きる」はできるけど、彼女は存在することに価値をつけることで「生きる」を体感したかった。マズローで言えばまだ3つめの「所属と愛の欲求」をうまく満たさないまま育った彼女は愛を諦めてとりあえず所属の欲求を満たそうと無意識にしていた。もちろん愛が全くない世界に生きているわけではないが、隣の芝は青いどころではなく森林になって、わたしの大切にしていた庭に虫やら獣を送り込んできてめちゃくちゃにしていくのだ。わたしには隣が壮大すぎた。グループに属するのは苦手でLINEグループは根こそぎ退会するし学校生活では仲良しグループに参加できなかった、その証拠に変な名前のついた定期的な集まりにわたしはほぼ参加したことがない。だから、自分の努力なしに組織に組み込まれれば自動的に仕組み上名前が記載されるどこかの組織に常に属していた。

 

学校・部活・研究室・職場。

 

大抵こういった仕組みで動く組織というのは任務が与えられている。

 

学校ならば学業でゴールは次の学校に進むための試験を突破すること。

部活ならその部活で行ってる活動や大会。何かしら目標というものが存在する。(自由にその日のその時間を楽しむ系はこの定義にハマらないためわたしはサークルを2回抜けた)

研究室はその名の通り研究。定期的なミーティングや発表、そして論文の提出があり、研究というくらいだから何を明かすための研究なのかという目標がある。

そして職場。そこで与えられたら見つけたりして各々仕事をする。目標も評価もあったりなんかする。

 

今の人は自己実現の欲求のために生きすぎるから生活の為に働くと思ってたひと世代昔とは違くて戸惑う。

という話を先週の彼女は聞いた。聞かなくてもなんとなくずっと感じていたけど。

でも大人になると自己実現がいつの間にか無くなっていることがある。彼女もそのひとりだった。結婚とか就職とか"世間の声"という自分に聞こえるだけの謎の存在に自己実現の部分が染められてる人もいるかもしれない。最近はそういうのも脱却しようみたいな風潮もあるかもだけど、正直それ自体はどっちでもいい。

世間の声だろうと自分のブレない考えだろうとわたしにとっては目標、夢や野望となり得るそれは全部等しく羨ましいし希望に見える。

 

何のために「生きてる」?の問いに答えられる答えが欲しかった。

それがあれば辛いも苦しいもその光のために「がんばる」という行為が美しくなるから。

でもそんな崇高なものはなかった。少なくとも今の彼女にはなかった。

 

だから彼女はそれを「所属の欲求」に置き換えることにした。

彼女は職場に所属していながら所属できていなかった。

何故なら職場で所属の権利を得るためには義務を果たさなければならない。「仕事ができる」という絶対条件が情けないことに彼女には皆無だった。その証拠に一年経っても部署に認められていない彼女と一ヶ月で溶け込めている新人。正直、彼女のこの日はどん底で出来ない仕事に向き合うことで何とか生きていた。ある意味仕事がなければ彼女は死んでるし、その仕事のおかげで死ぬかもしれない。同期でも彼女だけ何も成し遂げていない。

 

だから、本当の意味での「所属」を得るために「がんばる」ことを決めた彼女は前に進むしかなかった。それが意外と良い方向に向かってはいた。

 

そして金曜日。

 

彼女は焦っていた。

今日は彼女のBossは休暇だった。朝、化粧をしながら彼女は電話の英語での対応の動画を復唱していた。「I'm afraid, He is taking a day off today.Could you please email him the message?」この日、英語の電話は来なかった笑

 

焦っていた理由は全くもってこれではない。

 

優先順位がグらついていた。

そして今担当している業務の不足が何かよくわかっていなかった。

今まで与えてもらった点の業務に取り組むことを繰り返していたら、いつの間にか線にしそびれて、点の先がわからなくなっていた。

先輩に相談して、彼女の業務の流れの確認と現在取り組んでいるものの不足を確認をしてもらうことにした。まずは自分で流れを確かめながら、不明点を問い合わせることにした。

何にでも時間のかから彼女は本来進めようと思っていた業務に手付かずのまま、確認をし続けた。だが、今これをやっておかないと後々もっと酷い目になる。それは確信していたのでやめるわけにはいかなかった。そして、拠点の離れた先輩に電話で確認を始めた。

 

何と1時間も時間を取ってしまった。

彼女は死にたくなった。だが、その反面やることがクリアになったのも事実だった。

 

ただ、今日何も生み出していない事実と先輩の貴重な1時間を潰してしまった事実はどうしたって拭えない。Bossに確認こそされないが、自分が休みの日に何もしていなかったと思われたくなかった。でも、仕事とは結果が全て。何もしていなかったのと同じなのである。気がついた時には既に定時をだいぶ過ぎていたがとりあえずタイムカードを切って、業務を続けた。

連日の寝不足もあったはずなのにとても集中していて静かだった。

 

後ろで彼女のだいすきな小松さんが「帰らないのかな?」と少し待っていてくれたようだったが、じいが「あいつは今日帰らねえよ」といって2人が先に帰ったのは背後に感じた。

 

でもまわりにも何も生み出さないくせにいつも遅いと思われてると思うと居た堪れなくて、半日を1時間超えたくらいで帰宅した。

 

彼女の居場所は今日もなかった。

 

でも所属するためにがんばることを決めた彼女は気まぐれの死にたいさえも、そもそも所属を得ていない彼女にとって「生きて」いない状態なので、生命的な意味の死しかなくなった今その感情ももはややるせない気持ちの捌け口でしかなかった。