わたしの部屋に猫が来た。
真っ黒ではなかった。でも洗濯物に黒い毛がついてる正体はお前か!と言ったので黒い猫だったと思う。
いろんなことがうまくできないと言っていた。
掃除も洗濯も料理も家事全般、他の猫(?)にできることが自分にはできないと言っていた。
へえ、と聞いていると母が何故かいた。
冷蔵庫の物を食べて漫画を読んでいる。
ベッド買ったことを驚かせたくてまだ呼んでなかったのにいつの間にきたのだろう。
あと、あれは誰だったか。
狭い家に次から次へと。
わたしの家はこんな丘の途中になかったし
近くの中学校も丘の上ではなかったがそこから
あの子たちのレベルにしては下手くそな吹奏楽が聴こえてきた。
「それは富山で吹奏楽有名な学校名ねw」と得意げに突然現れた来訪者の同級生らしき女にツッコんでいた。
その間も猫はわたしの周りをチョロチョロしていた。猫にしては早すぎる動きと小ささで、実態(、いや実体か?)をとらえられずにいた。
ただ、声だけは聞こえた。
ユーフォのソロが爆音で聴こえた時、同級生と思われる女が上手的な言葉で褒めていたが、「いや、まだ中2くらいの感じだな、ヴィブは、少しかかってるけど(音の力強さに繊細さがない感じが上手な人の音ではなかった)」
そんなわたしの偉そうな批評を猫はへえと感心して聞いてくれていた。
しかし、わたしはヴィブラートのことヴィブなんて略し方、したことあったか。
そういえばおまえはどこから来たんだと聞くと、二階、屋上からという。
それで最近洗濯物や風に乗って部屋に黒い毛が来るのかと納得していた。でも何故か、わたしはめんどくさそうだった。
煙草を二階に吸いに行くことがある、とか言っていたからか。
そんなたわいもない会話をしていると猫の大群がベット近くの窓から物凄い勢いで流れ押し寄せてきた。
わたしは、早く追い出せ!わたしは猫アレルギーなんだよ!と猫に叫んだ。
猫は小さな体を呈して全員追い返した。
母は見向きもせずデザートを食べながら漫画を読み続けていた。
同級生の女はいつの間にか消えた。
猫たちを追い返した猫がいる窓に近づき、カーテンをめくって現れたのは、猫といえる大きさではなかった。ハムスターくらいのそいつがわたしに腹を見せた。とてもとても小さかった。手を伸ばし頭から背中を撫でるとツルッとした毛の感触。そのままするっと窓の大きめなサッシから部屋に飛び降り、お母さんですとその猫(猫と呼べる見た目ではなかったが)は両足で立ちぽてっとしたおしりを床につけて言った。
いや、ハムスター、、、猫か。
猫が紹介するとカーテンからグレーがかった黒と白、確か左目に黒がかかるような模様のさらふわな毛並みのまさに猫という感じの猫がしゃんと座っていた。
奴がまんまるな目をしているのと対象に母猫は線みたいな目でわたしに子供がお世話になっていますと挨拶をした。
『この子は本当に何もできなくて、洗濯も料理も家事も何にもできなくて、でも小さい体で…』
母猫が言い終わる前にちょろちょろ動き回るそいつを膝に乗せ撫でながらわたしはボロボロ泣いていた。
「おまえ、みんなと違う体でずっとがんばってたんだな、ごめんな、ごめんな…」
ぼろぼろ泣いた。
やつは何も言わずにこっちを見た。
表情は覚えていないが、無害な顔でこちらを見たのだ。
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1時間のつもりがどれくらい寝たのだろう。
朝まで寝てしまうのではないかと不安に思って設定した目覚ましよりは早く目覚めたようだ。
英語と勉強が回らなくなり、在宅と出社に慣れ始めたところで今週は全日出社でペースが掴めなくなりそうだった。
わたしが回せなくなることで首をジリジリと締めるものは仕事だけではないのだ。仕事のテンポが最近わたしなりに良くなってきた矢先に。
思い切って午後休を2日前に申請した。他の会社はわからないが、少なくともサービス業やシフトで動いてるところでは絶対できないだろう。わたしが社会不適合者のくせに自分のできなさに辟易しながらもなんとか働かせてもらえてるのは今の部署と今の上司が成すべきタスクと余裕(幅とか自由)をちょうどいい塩梅で与えてくれているからだと思う。こういう書き方すると与えられてるうちは仕事できないみたいに思うかもしれないけど、実際自ら何も生み出してないので仕方ない。痕がつかないくらいの鎖で囲われてるから明後日の方向に走り出そうとしてる時はくいっとその鎖を引けば正しい方向に向けるし、締め付けられてないから特に不満もない。猫になりたいとか思わない。猫アレルギーだし。
そんな背景の元、せっかくもらった休みだったが、英語の復習を始めて2秒、あ、今日行けないと直感した。
英会話に休みの連絡をいれ、睡眠不足に自宅のリラックスで微睡んできて思い切って1時間タイマーをかけて眠った。
何一つ消化してない。英語も勉強もしてない。
ずっといるはずの猫はどこに…いや、いない。
そんなものいない、夢だ。
でも何もできないあいつが必死に、しかも辛そうな様子も見せず、グチもこぼさず、わたしに粗い口調で存在を粗末に扱われたにも関わらず律儀に自分よりデカイ猫の大群を追い払ったあいつが何故か忘れられなくなった。
それを1時間近くかけて書いているだけの半休をもらった。